論文解説

また飲んでしまう。
TMSで再発は減るのか、論文を読んでみた。

右の前頭前野へのcTBS(θバースト刺激)は、アルコール使用障害の再発にどう働いたのか。1年間追跡した二重盲検試験(Molecular Psychiatry)の中身を、順に読んでいきます。

アルコール使用障害cTBS(θバースト)再発予防

ベスリクリニック東京(神田院)・ベスリTMS横浜醫院(横浜院)|監修:田中 伸明(医療法人社団ベスリ会 総院長)|最終更新:2026年11月7日

この論文でわかったこと

  1. 1対象は、アルコール使用障害の患者50人(実刺激29人、sham 21人)。右背外側前頭前野へのcTBSを2週間・20回行い、1年間追跡した。
  2. 21年間の再発リスクは、実刺激群のほうが低かった(ハザード比0.426、95%信頼区間0.189〜0.964、p=0.041)。
  3. 3安静時fMRIでは、判断・自制に関わるネットワークから、欲求・報酬に関わるネットワークへの「制御エネルギー」が、実刺激群で下がった。一方、AUDITと渇望の変化には、群の間で差が出なかった。

断酒しても「また飲んでしまう」とは?再発の現実

お酒をやめる決意と、やめ続けられることは、別の話です。外来でよく聞くのは、次のような場面です。

  • 仕事帰り駅前の居酒屋の前で足が止まる。「一杯だけ」と入って、気づくと閉店まで飲んでいる。
  • 家庭家族に「もう飲まない」と約束したのに、仕事で嫌なことが重なった夜に、飲んでしまう。
  • 断酒後入院や断酒で数週間やめられても、「いつまた飲んでしまうか分からない」という不安が続く。

論文は、先行研究をもとに、解毒(離脱)の治療のあと、再発が6か月で約60%、1年でおよそ90%に達すると紹介しています。やめたあとに続ける段階の治療が、強く求められているということです。

アルコール使用障害(AUD)とは

飲酒をコントロールしにくくなり、健康や生活に問題が出ても飲み続けてしまう状態です。論文によると、世界の成人の約1.4%にあたります。

論文は、脳のネットワークの偏りに注目しています。判断や自制をつかさどる「前頭頭頂ネットワーク」の働きが弱まり、欲求や報酬をつかさどる「皮質下ネットワーク」など、ボトムアップの働きが強まる、という見方です。この偏りを整えることが、右背外側前頭前野への刺激の狙いでした。

試験のしくみ:二重盲検RCTを読み解く

論文のタイトルや要約には「ランダム化比較試験」「二重盲検」「sham」といった言葉が並びます。論文を読むとき、最初に引っかかりやすい言葉です。

  • RCTランダム化比較試験。くじ引きで人を2つに分け、結果を比べる。
  • 二重盲検患者も、評価する人も、どちらの群か知らない。思い込みで結果が動くのを防ぐ。
  • sham本物に似せた偽の刺激。刺激そのものの効果を正しく比べるために使う。

刺激の条件と追跡

  • 部位右背外側前頭前野(F4)
  • 刺激cTBS。1回40秒、600発。強さは安静時運動閾値の100%。
  • 回数平日の10日間、1日2回(朝と午後)。合計20回。
  • 追跡治療後の1・3・6・9・12か月に、電話で再発を確認。
アルコール使用障害の患者 50人 くじ引きで2群に 実刺激群 29人 右前頭前野にcTBS sham群 21人 偽の刺激 どちらも2週間・20回 前後で、fMRIと質問票を測る 1年間、再発を追跡(電話で確認)
図2 試験の流れ

結果:再発・脳の変化・質問票はどう変わったか

主要な結果:1年間の再発リスク

再発までの時間を、Cox比例ハザードモデルで比べました。実刺激群は、sham群より再発リスクが低くなりました(ハザード比0.426、95%信頼区間0.189〜0.964、p=0.041)。

1年間の再発リスクの比(ハザード比)0.20.5120.4261 = 差なし1より左:実刺激群のほうが再発しにくい線の長さは、95%信頼区間(0.189〜0.964)

各検査の結果

  • 各時点の再発率1・3・6・9・12か月の、それぞれの時点で比べる。全時点で実刺激群が数値上低い。有意差は6か月・9か月
  • PSS-10(ストレスの質問票)「最近1か月、どのくらいストレスを感じたか」に答える。主観的なストレス:実刺激群が低下
  • 安静時fMRI(脳活動のパターン)横になって安静にしている間の、脳の活動を測る。断酒に関わる活動パターン:実刺激群で増加
  • 制御エネルギー脳の配線をもとに、ネットワーク間の切り替えに必要な労力を、計算で求める。判断・自制から欲求・報酬への働きかけ:実刺激群で低下
  • AUDIT(飲酒問題の質問票)飲酒の量や頻度、飲酒による問題を答える。群の間で差は出ず(実刺激群 31.21→30.90)
  • 飲酒への渇望飲酒に関する画像を見て、渇望の強さを0〜100で答える。群の間で有意な差は出ず

脳の変化は、再発とどうつながったか

安静時fMRIから取り出した「皮質下を中心とする活動パターン」は、再発を予測するモデルで最も重要な特徴でした(AUC 0.906。交差検証では平均0.878)。このパターンが強いほど、再発しにくい向きでした。実刺激群では、このパターンの強さが治療後に増えています。

制御エネルギーの低下は、AUDITの変化の差を媒介していました(間接効果 −0.168、95%信頼区間 −0.302〜−0.014)。ただし、この脳ネットワークの解析は、事前登録されていない探索的なものです。

この論文の限界:読むときの注意

この試験の参加者:50人実刺激群 29人sham群 21人
図4 参加者50人のイメージ。男性は46人でした。
  1. 小規模・1つの施設。50人だと、偶然の偏りが結果に混ざりやすくなります。複数の施設で人数を増やした試験で、同じ結果になるか見る必要があります。
  2. 1つの試験。研究は、複数の試験をまとめて評価(メタ解析)して、はじめて重みが出ます。
  3. 再発の差と、飲酒の量や渇望は別の話。再発リスクでは差が出ましたが、各時点の比較で有意だったのは6か月と9か月だけです。AUDITと渇望には、群の間で差が出ていません。
  4. 脳ネットワークの解析は探索的。事前登録がなく、遺伝子やマウスとの対応づけは、健康な人の脳のデータなどをもとにしています。

ベスリのTMS治療(神田院・横浜院)

ベスリは「薬に頼りすぎない」ことを方針にしています。TMSは、その中心にある治療です。ただし、アルコール依存症の方は、現在のベスリのTMSの対象外です。うつなど、TMSの対象となる症状については、神田院・横浜院のどちらでもご相談いただけます。

ベスリのTMSの特長

  • 方法磁気で脳の前頭前野を刺激し、脳ネットワークを整えます。薬とは別の角度から行う治療です。
  • 期間早い方では1〜2週間(10回前後)で変化を感じます。多くは10〜20回目ごろから実感されます。個人差があります。
  • 負担眠気やだるさなど、薬で起こりやすい副作用は基本的にありません。麻酔は不要で、意識のある状態で受けます。
  • 実績2017年から実施。5,000症例以上(2021年時点)。

状態に合わせて掛け合わせる3つ

  • QEEG脳波検査。刺激する位置と方法を決め、治療前後の変化を確認します。詳しく ↗
  • SGL星状神経節近傍レーザー。動悸・息苦しさ・体のこわばりなど、身体症状が重なる方に。注射は使いません。
  • PBM光刺激。脳疲労やブレインフォグが強い方に、TMSの前に行うことがあります。脳疲労について ↗

すべての方に行うものではありません。脳疲労が強いときは、診察でPBMも含めて相談します。治療抵抗性うつ病については、専用ページ ↗もご覧ください。

初診のながれ

  1. ご予約。WEBから。神田・横浜のどちらでも受けられます。
  2. 心理検査・診察。症状に加えて、生活や仕事・学校への影響、これまでの治療経過まで伺います。
  3. 初回施術(無料)。まず体験していただき、続けるかどうかを決めていただけます。
  4. 治療と定期的な見直し。10回ごとに診察で状態を確認します。
  5. 回復後のサポート。復職・復学、再発予防まで、目標に合わせて相談できます。

受けられない方

TMSを受けられない方
  • 17歳以下
  • 死の危険性がある/妊娠の可能性がある
  • 人工内耳・ペースメーカー・DBS・投薬ポンプを使用している
  • 統合失調症、双極性障害、強迫性障害、アルコール依存症、パーソナリティ障害、脳の器質的疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜のう胞を含む)、てんかん、摂食障害などがある
  • 他の患者様・スタッフへの診療妨害行為がある

問診と身体診察で、実施できるかを確認します。

TMS治療の料金

基本の料金

  • 初回施術まず体験して、続けるかを決められます無料
  • 初回相談料初診時に1回11,000円
  • 2回目以降1回あたり6,600円
  • 10回券1回あたり4,950円49,500円

TMS治療(θバースト/rTMS)の料金です。

プラン料金

  • A. トライアル60,500円TMS 11回(初回含む)/最短4回の通院。まずTMSを試してみたい方に。
  • B. スタンダード159,500円TMS 31回(初回含む)/最短11回の通院。改善から再発予防まで目指したい方に。
  • C. パーソナル181,500円QEEG 2回+TMS 31回/最短12回の通院。脳の状態のデータを見ながら進めたい方に。

組み合わせメニュー

  • 内容単回回数券
  • QEEG16,500円2回 22,000円1回 11,000円
  • SGL2,200円10回 11,000円1回 1,100円
  • PBM4,400円10回 33,000円1回 3,300円
回数券の有効期限
  • TMS回数券:初回購入は1か月、2回目の購入は3か月、3回目以降は6か月
  • SGL・PBM回数券:購入回数に関わらず3か月
  • 回数券の払い戻しはできません
予約とキャンセル
WEB予約は予約時間の2時間前まで、お電話・受付・LINEは2日前までキャンセルできます。前日・当日のキャンセルは、1回分の施術料金をいただきます。
治療終了後に再開するとき
再開できます。ただし、3か月間ご来院がないと、衛生上、備品を廃棄します。その場合は、事前診察(10分/1,100円)と衛生用品代(5,500円)が別に必要です。メンテナンスを1回でも行えば、その日から6か月延長して保管します。

お支払いは現金のほか、クレジットカード等が使えます。治療のローンはご用意していません。

2つの院

  • 神田院ベスリクリニック東京。東京都千代田区神田鍛冶町3丁目2 神田サンミビル8階。JR神田駅から徒歩1分。電話 03-5295-7555。平日 11:00–14:30/16:00–20:30、土 10:00–18:30、日 10:00–16:00。
  • 横浜院ベスリTMS横浜醫院。神奈川県横浜市中区桜木町1-101-1 クロスゲート1F。JR桜木町駅から徒歩3分。電話 045-232-4583。月火木金土 10:30–14:30/16:00–20:00、日 10:30–16:30、水曜休診。

用語集

  • アルコール使用障害(AUD)飲酒のコントロールが難しくなる状態。アルコール依存症などを含む診断名。
  • cTBSθバースト刺激の1つ。短時間で、刺激した部位の活動を抑える方向に働く。
  • 右背外側前頭前野(rDLPFC)判断・自制・注意に関わる、右の前頭前野。
  • 二重盲検患者も評価者も、どちらの群か分からない試験の方法。
  • sham(シャム)本物に似せた偽の刺激。比較に使う。
  • ハザード比再発などが起こる速さを、2群で比べた値。1より小さいと、起こりにくい。
  • AUDIT飲酒の量や、飲酒による問題を点数にする質問票。
  • 制御エネルギー脳ネットワーク間の切り替えに必要な労力を、計算で求めた理論値。

Q&A

アルコール使用障害(AUD)とは、どんな状態ですか?

飲酒をコントロールしにくくなり、健康や仕事、家庭に問題が出ても飲み続けてしまう状態です。この論文では、診断基準(DSM-5)を満たす方が対象でした。アルコール依存症などを含む診断名として使われます。

cTBSとは何ですか? TMSとどう違いますか?

TMSは、磁気で脳を刺激する治療の総称です。θバースト刺激はその中で短時間に行える方法で、cTBSはそれを連続して行うタイプです。この論文では1回40秒(600発)で、刺激した部位の活動を抑える方向に働く方法として使われています。

右背外側前頭前野(rDLPFC)とは、どこですか?

おでこの右上あたりにある、判断や自制、注意の向け方に関わる脳の部位です。この論文では、頭の表面の位置を決める国際10-20法の「F4」を目印に刺激しています。飲酒の手がかりに注意が引き寄せられることと関わるとされ、刺激の部位に選ばれました。

sham(偽刺激)はなぜ必要ですか?

刺激そのものの効果を、正しく比べるためです。本物に近い偽の刺激を比較に使い、本物の刺激だけが持つ効果を取り出します。

50人の試験は信用できますか?

二重盲検で比較している点は強みです。一方で、50人・1つの病院の試験なので、偶然の影響を受けることがあります。著者らも、参加者の盲検が保たれていたかは正式に評価していないこと、脳ネットワークの解析は事前登録されていないことを限界として挙げています。1つの試験で決めつけず、ほかの試験でも同じ結果が出るかを見ていく必要があります。

ハザード比0.426とは、どう読めばよいですか?

追跡期間中、再発が起こる速さが、実刺激群ではsham群の約0.43倍だったという意味です。1より小さいほど、実刺激群で再発しにくかったことを表します。ただし95%信頼区間は0.189〜0.964と幅が広く、実際の差の大きさには幅があります。

再発は、どのように調べたのですか?

治療後の1・3・6・9・12か月に、スタッフが電話で本人確認をして、飲酒の状況を聞き取りました。再発の重さは0〜5の6段階で評価し、家族など連絡先の方にも確認して正確さを高めています。

AUDITや渇望(クレービング)で差が出なかったのはなぜですか?

論文は、理由を断定していません。事実として、治療の前後でのAUDITの変化(実刺激群は31.21から30.90)も、飲酒への渇望の変化も、群の間で有意な差は出ませんでした。一般にAUDITは過去1年ほどの飲酒を尋ねる質問票のため、2週間では変わりにくい面があります。一方、主観的なストレス(PSS-10)は、実刺激群で下がりました。

「制御エネルギー」とは何ですか?

脳の配線(神経線維の結びつき)をもとに、ある脳ネットワークの状態から、別のネットワークの状態へ切り替えるのに必要な「労力」を、計算で求めた理論値です。実際のエネルギー消費を測ったものではありません。値が小さいほど、切り替えやすいと解釈します。

遺伝子やマウスの解析は、何を意味しますか?

制御エネルギーの低下が大きかった脳の場所は、神経のつなぎ替え(可塑性)に関わる遺伝子が多く働く場所と重なっていました。また、マウスの脳では、前頭前野の前辺縁野・下辺縁野に対応していました。ただし、遺伝子のデータは健康な人の脳のものです。AUDの患者さんで確かめたものではありません。

この論文の結果は、自分にも当てはまりますか?

当てはまるとは限りません。参加者は男性が50人中46人で、断酒を始めてから平均7〜9日ほどの方でした。結果が自分の状態に当てはまるかどうかは、これまでの経過や今の状態を伺ったうえで、医師が判断します。

ベスリで、アルコール依存症のTMSは受けられますか?

現在は、受けられません。ベスリでは、アルコール依存症の方はTMSの対象外としています。この論文は、アルコール使用障害へのcTBSを調べた研究の1つで、日本で一般的に行われている治療を示すものではありません。

お酒をやめたい、再発が不安なときは、どこに相談すればよいですか?

アルコール依存症を診ている精神科・心療内科、専門外来、お住まいの地域の精神保健福祉センターなどに相談できます。長く多量に飲んでいた方が急にやめると、けいれんや幻覚などの離脱症状が出ることがあるため、断酒は医療機関に相談しながら進めてください。

TMS治療とは、どんな治療ですか?

頭の外から磁気で脳の一部を刺激する治療で、薬を使わない選択肢の1つです。ベスリでは、うつに大きく関わる背外側前頭前野を刺激します。麻酔は不要で、意識のある状態で受けます。

TMS治療の費用はいくらですか?

自費診療です。初回施術は無料で、初回相談料が11,000円かかります。2回目以降は1回6,600円、10回券なら49,500円(1回あたり4,950円)です。金額はすべて税込です。プラン料金や組み合わせメニューの料金は、このページの料金の章に載せています。

保険は使えますか?

ベスリのTMS・NM治療は、すべて自費診療です。

副作用・リスクはありますか?

軽い頭痛、痛みによる迷走神経反射(吐き気・ふらつき)、顔面の違和感が出ることがありますが、多くは2〜3日で軽快します。重い副作用のけいれん発作は0.1%です。体内に金属や生体材料がある方はリスクが高くなるため、問診でご相談ください。

神田院と横浜院のどちらでも相談できますか?

どちらの院でもご相談いただけます。神田院はJR神田駅から徒歩1分(03-5295-7555)、横浜院はJR桜木町駅から徒歩3分(045-232-4583)です。診療時間は、このページの「2つの院」をご確認ください。

参考文献

Wu ZK, Zhao JN, Zeng NN, Huang LJC, Li YY, Dong GH, Wang M, Di JZ, Zheng H. Optimizing brain functional–structural architecture with cTBS to reduce relapse in alcohol use disorder: a randomized controlled trial. Mol Psychiatry. 2026 Dec;31(12):6857–6867. Epub 2026 Jul 15.
DOI: 10.1038/s41380-026-03747-5 PMID: 42457860 PMCID: PMC13736624 臨床試験登録:ChiCTR2200065453