About
更年期に起こる心の不調
更年期は、閉経をはさんだ前後5年ほど、多くの方で40代後半から50代前半にあたる時期を指します。卵巣からの女性ホルモンの分泌が低下することで、身体にも心にもさまざまな変化が起こります。
日本女性医学学会は、更年期には女性ホルモンの低下による変化に加えて、精神・心理的な要因や社会・文化的な環境因子が複合的に強く影響し、多様な精神症状が現れると説明しています。子どもの独立、親の介護、職場での役割の変化。この年代に重なりやすい出来事は、それだけで心の負担になります。
つまり、更年期の落ち込みは「ホルモンのせい」だけでも「気の持ちよう」でもありません。身体の変化と生活の変化が同時に起きていることを前提に、何が起きているのかを分けて見ていく必要があります。
Difference
更年期障害の抑うつと、更年期のうつ病は違います
同じ「気分が落ち込む」でも、更年期障害の症状のひとつとしての抑うつ気分と、うつ病としての抑うつでは、最初に相談する科も、治療の組み立ても変わります。
日本女性医学学会は、軽度から中等度の「抑うつ的な気分」「意欲の低下」は更年期障害の症状としてとらえて差し支えなく、最初の相談先としては婦人科ないし更年期外来が望ましいとしています。一方で、これらの症状が強い場合や、生きていくことそのものを否定するような言動がある場合には、更年期うつ病との鑑別が必要である、とも明記しています。当院ではこの記載をふまえ、軽度の落ち込みはまず婦人科・更年期外来へ、改善が乏しい場合や中等度以上の落ち込みは精神科・心療内科での評価をおすすめしています。
相談先の目安 ── まず身体か、まずこころか
日本女性医学学会「抑うつ気分 意欲の低下」の記載をふまえた当院の受診の目安です。学会は軽度〜中等度を婦人科の範囲としていますが、当院では、軽度はまず婦人科、改善が乏しい場合や中等度以上は精神科・心療内科での評価をおすすめしています。実際の判断は診察により、両方が重なる場合は婦人科との併診もあります。
「消えてしまいたい」「生きていても仕方がない」という気持ちがある、食事がとれない、眠れない日が続いている――そうした状態は、更年期障害として様子を見る段階ではありません。当院、かかりつけ医、または身近な相談窓口へ、できるだけ早くご相談ください。
症状セルフチェック
当てはまるものを確認してみてください。診断ではありませんが、受診時にお話しいただく材料になります。
Mechanism
なぜこの時期に起こるのか
更年期は、身体の変化と生活の変化が同時に押し寄せる時期です。国際的なガイドラインでも、この時期は抑うつが起こりやすい「脆弱性の窓」と位置づけられています。
3つの要因が重なる ── 更年期の抑うつ
周閉経期を「脆弱性の窓」とする位置づけは、北米閉経学会(NAMS)らの2018年ガイドラインによります。すべての方がうつ病になるという意味ではありません。
Evidence
研究でどこまで分かっているか
医療情報は「どの研究が、どの対象に、どこまで言えるか」で意味が変わります。このページで参照した3つの資料と、その限界をそのまま示します。
北米閉経学会(NAMS)と全米うつ病センターネットワークの専門家パネルが2018年にまとめたガイドラインでは、閉経移行期から閉経後早期にあたる周閉経期が、抑うつ症状と大うつ病エピソードの双方にとって脆弱な時期として位置づけられました。疫学、臨床像、抗うつ薬・ホルモン療法の効果、心理療法や運動などが体系的に整理されています。
同時に、この時期に大うつ病エピソードを経験する中年女性の多くは、過去にもうつ病エピソードを経験していることが示されています。「更年期だから初めてうつになった」とは限らない、という視点は、治療方針を考えるうえで重要です。
Maki PM, et al. Menopause. 2018;25(10):1069-1085.
うつ病に対する高頻度rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)について、無作為化・二重盲検・偽刺激対照の試験29件、計1371例を統合したメタ解析があります。この解析では、約13回の治療後に反応29.3%、寛解18.6%と報告され、偽刺激と比べた反応・寛解のオッズ比はいずれも3.3(治療必要数はそれぞれ6と8)でした。脱落率は偽刺激群と同程度で、忍容性は良好と結論づけられています。
ただし、これはうつ病全般を対象とした解析であり、更年期のうつ病に限定したものではありません。「更年期のうつ病だけ」を対象とした質の高い試験は、現時点では十分にそろっていません。当院がこの数字をそのまま更年期の方に約束することはできません。
Berlim MT, et al. Psychol Med.(高頻度rTMSの反応・寛解率に関する系統的レビュー/メタ解析)
TMSの効果に性差があるのかは、繰り返し議論されています。ある総説は、女性、とくにエストラジオールが高い時期に、rTMSの治療効果に対する感受性が高い可能性を指摘し、その理由として、前頭前野で頭皮と脳の距離が近いこと、灰白質密度が高いこと、エストラジオールが皮質の興奮性を高めることの3つを仮説として挙げています。一方で、50歳以降の女性で効果が大きかったとする臨床報告もあります。
両者は方向が一致していません。更年期はエストラジオールが低下する時期ですから、前者の仮説をそのまま当てはめれば「効きにくい」ことになります。したがって当院は、「更年期の女性だからTMSが効きやすい」という説明はしません。現時点では、性別や年齢だけで効果を予測することはできないというのが正直なところです。
Sex/Gender as a Factor That Influences TMS Treatment Outcome. Front Psychiatry. 2022.(総説。仮説の提示であり、証明ではありません)
Treatment
治療の選択肢と使い分け
更年期の抑うつには複数の入口があります。どれか一つが常に正解ということはなく、症状の中身と重さ、これまでの経過によって組み立てが変わります。
| 治療 | 主な対象 | 担当する科 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| ホルモン補充療法(HRT) | ほてり・発汗などの身体症状、更年期障害の一部としての抑うつ気分 | 婦人科 | 適応・禁忌の判断は婦人科が行います。うつ病そのものの標準治療ではありません |
| 漢方薬 | 体質・症状に応じた不定愁訴 | 婦人科・内科・心療内科 | 併用されることがあります |
| 抗うつ薬 | うつ病 | 精神科・心療内科 | うつ病治療の柱のひとつ。効果・副作用を見ながら調整します |
| 心理療法・カウンセリング | ストレス、役割の変化、考え方のくせ | 精神科・心療内科 | 薬物療法と併用されることがあります |
| TMS治療(経頭蓋磁気刺激) | うつ病(当院では自費診療として実施) | 精神科・心療内科 | 薬を増やしたくない方、薬の副作用がつらい方の選択肢のひとつ。効果には個人差があります |
| SGL(星状神経節光照射) | 交感神経の過緊張が疑われる自律神経症状 | 心療内科 | 首の付け根の星状神経節付近に近赤外線を当てる非侵襲の方法(注射は行いません)。当院ではTMSとの併用を方針としています(下記参照) |
※ 一般的な整理であり、個々の適応は診察のうえで判断します。HRTの可否は婦人科の判断領域です。
乳がんや子宮体がんなどの既往によりホルモン療法を選べない方、薬をこれ以上増やしたくない方から、「ほかに方法はないのか」というご相談をいただきます。TMS治療は、そうした場面での選択肢のひとつです。ただし、すべての方に向く治療ではありません。
Our Approach
当院の治療方針:脳と自律神経の両側から
更年期の身体症状——ほてり、のぼせ、発汗、動悸、寝つきの悪さ——は、その多くが自律神経のはたらきの乱れとしてあらわれます。一方で、気分の落ち込みや意欲の低下は、脳のはたらきの側の問題として整理されます。当院では、この「自律神経」と「脳」を別々のものとして扱わず、両側から手当てすることを治療方針としています。
具体的には、脳の側にはTMS治療(経頭蓋磁気刺激)を、自律神経の側にはSGL(星状神経節光照射)を用い、症状の中身に応じて両者を併用することがあります。SGLは「Stellate Ganglion Light irradiation(星状神経節光照射)」の略で、首の付け根にある自律神経の集まり(星状神経節)に光を当てる方法を指します。当院のSGL(星状神経節光照射)は、注射ではなく、首の付け根にある交感神経の集まり(星状神経節)の付近に近赤外線を照射する非侵襲の方法です。光を当てることで交感神経の過度な緊張をやわらげ、血流を整えることを目的としています。針を刺さないため、注射に伴う痛みや出血の心配が少ない方法です。
なぜTMSにSGLを併用するのか
更年期の不調は、気分の落ち込みや意欲の低下といった脳のはたらきの面と、ほてり・のぼせ・発汗・動悸・寝つきの悪さといった自律神経(とくに交感神経)の面の、両方にあらわれることがあります。この2つは別々の入口を持つため、片方だけを整えても、もう片方のつらさが残ることがあります。
TMSは脳の側(気分に関わる部位)に、SGL(光照射)は自律神経の側(交感神経の過緊張)に、それぞれ別の入口から働きかけます。当院が両者を併用することがあるのは、その人に出ている不調が脳と自律神経の両面にまたがるとき、片側だけでなく両面を同時に整えることを狙うためです。
脳と自律神経、両面から整える
TMSは気分に関わる脳の側に、SGL(光照射)は交感神経の過緊張という自律神経の側に働きかけます。両面に不調があるとき、片側だけでなく両側から整えることを狙う考え方です。効果には個人差があります。
SGLが対象とするのは、どんな症状か
SGL(星状神経節への光照射)が対象とするのは、うつ症状そのものではなく、交感神経の過緊張が関わると考えられる自律神経症状です。更年期では、たとえば次のような症状がこれにあたります。
これらが強く、交感神経の過緊張が背景にあると考えられる場合に、SGLをTMSと組み合わせて検討します。一方、気分の落ち込みや意欲の低下そのものへの治療は、TMS・薬物療法・心理療法が担当します。どの症状にどの方法を用いるかは、診察のうえで判断します。
更年期の症状に対するTMSとSGLの併用は、学会が定めた標準治療ではなく、当院の治療方針です。効果には個人差があります。
光を用いた非侵襲の方法のため、注射のような重い合併症は生じにくいとされますが、まれに照射部位の温かさや軽い刺激感を感じることがあります。光線過敏症のある方、乳幼児など、受けられない場合があります。適応の有無、実施の可否、費用は診察のうえで判断します。ご希望があっても、適さないと判断した場合は実施しません。
TMS治療とは
TMS治療は、日本語で経頭蓋磁気刺激と呼ばれ、磁気によって脳の特定部位を刺激し、脳の機能を調整する治療です。うつ病では背外側前頭前野(DLPFC)の活動低下が関与すると考えられており、この部位が刺激の対象になります。身体を切ったり、薬を全身に巡らせたりしない治療で、日本では2019年6月にうつ病に対するTMS治療が保険診療の対象になりました。
副作用としては、刺激部位の違和感や軽い頭痛などが生じることがあります。ペースメーカーや体内金属など、受けられない条件がある場合もあるため、初診時に必ず確認します。「絶対に安全」「必ず効く」といった治療ではありません。
なお、このページでご案内しているTMS治療は保険適用外の自費診療です。保険診療としてのTMSには、対象・実施施設・回数などの条件があります。
Flow
受診の流れ
まず「何が起きているのか」を分けるところから始めます。TMS治療ありきではありません。
- 1
初診のご予約
Webの初診フォームからご予約ください。神田院・横浜院のどちらかをお選びいただけます。初診は原則として対面診療です。
- 2
問診・心理検査
いつから、どんなときに、どのくらい続いているか。身体症状と気分の症状を分けてうかがい、心理検査で現在の状態を客観的に見ます。
- 3
診察と方針の相談
更年期障害としての要素が大きいのか、うつ病としての治療が必要なのかを整理します。婦人科での対応が適していると判断した場合は、その旨をお伝えします。
- 4
治療の選択
薬物療法、心理療法、TMS治療、必要に応じてSGLなどの選択肢を、効果と限界を含めてご説明します。TMS治療を選ぶ場合、必要な回数の目安もこの段階でお伝えします。
- 5
治療と経過の確認
TMS治療は1回で効果が出ることは少なく、10回程度から実感される方が多い治療です。まず10〜20回、その後は間隔を伸ばして10回程度のフォローアップが目安です。
Pricing
TMS治療の費用(神田・横浜 共通)
当院のTMS治療は自由診療(自費診療)です。初回相談料は11,000円(税込/初回施術は無料)。料金は神田・横浜の両院とも同額です。診断書代・薬代は別途かかります。
初回施術は無料
まず受けていただき、体感してから続けるかを決められます。初回相談料は11,000円(税込)です。
回数券
| 内容 | 回数 | 料金(税込) | 1回あたり |
|---|---|---|---|
| TMS治療(θBurstまたはrTMS) | 10回 | 49,500円 | 4,950円/回 |
※ 神田・横浜 共通の自由診療(自費)料金(税込)。
単回料金
| 内容 | 初回 | 2回目以降(税込) |
|---|---|---|
| TMS治療(θBurstまたはrTMS) | 無料 | 6,600円 |
※ 神田・横浜 共通の自由診療(自費)料金(税込)。初回施術は無料です。
※ 表示はすべて自由診療(自費)料金(税込)です。保険は適用されません。効果には個人差があり、必要な回数は症状や経過によって異なります。副作用として刺激部位の違和感、頭痛などが生じることがあります。ペースメーカー・体内金属などにより受けられない場合があります。SGLの費用は別途で、実施の可否は診察で判断します。最新の料金は各院にお問い合わせください。
FAQ
よくある質問
Supervised by
この記事の監修者
田中 伸明(たなか のぶあき)
医療法人社団ベスリ会 ベスリクリニック 総院長/専門:心療内科・神経内科・睡眠障害内科
「こころ・脳・身体」の観点から状態を分解し、再発しない形で社会に復帰し、自立して働ける未来を目指す診療を行っています。
プロフィール:besli.jp/staff.html / メディア:besli.jp/for-press-media.html
参考文献・出典
- 日本女性医学学会「よくある女性の病気:抑うつ気分 意欲の低下」https://www.jmwh.jp/n-yokuaru10-yoku.html(2026年7月14日確認)
- Maki PM, Kornstein SG, Joffe H, et al. Guidelines for the evaluation and treatment of perimenopausal depression. Menopause. 2018;25(10):1069-1085. PubMed
- Berlim MT, van den Eynde F, Tovar-Perdomo S, Daskalakis ZJ. Response, remission and drop-out rates following high-frequency rTMS for treating major depression: a systematic review and meta-analysis. Psychol Med. PubMed
- Sex/Gender as a Factor That Influences Transcranial Magnetic Stimulation Treatment Outcome. Front Psychiatry. 2022. PMC
本ページの医療情報は、上記の資料を確認したうえで作成し、当院医師が内容を確認しています。更新時には出典の現行性を再確認します。
Reservation
「更年期だから」と、ひとりで抱えないでください
まずは問診と心理検査で、いま何が起きているのかを一緒に整理します。婦人科での対応が適していると判断した場合は、そのようにお伝えします。
ベスリクリニック東京(神田)
ベスリTMS横浜醫院
本ページは情報提供を目的としており、診断・治療方針は個々の状態により異なります。TMS治療・SGLは効果に個人差があり、効果を約束するものではありません。SGLの実施可否は診察で判断します。診療時間・料金は変更される場合があります。最新の情報は各院の公式サイトをご確認ください。
監修:田中 伸明(医療法人社団ベスリ会 総院長)/最終確認日:2026年7月14日
