「ブレインフォグ(Brain Fog)」とは「頭にモヤがかかったようにぼんやりしてしまい、考えたり集中するのが難しくなってしまう」状態です。
頭の中にモヤがかかったような状態になり、記憶障害や集中力の低下がみられます。脳の神経細胞などのウイルスへの感染や炎症が原因との見方がありますが、発症する仕組みは研究途上です。
ブレインフォグは、医学用語ではなく、精神医学のなかでは取り扱われない単語ですが、コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、ここ数年で解消したいと相談を受けることが多くなりました。
これまで元気に過ごしていたのに、急に頭が働かない状態になり、「これがいつまで続くんだろうか」「ずっと治らないんじゃないだろうか」と不安に思っている方も多くいらっしゃいます。
この記事ではブレインフォグのメカニズムに加え、当院で行っているTMS治療とその実績についてお話しします。
目次
ブレインフォグの症状は?
ブレインフォグの代表的な症状は以下のようなものです。
- 頭に鉛が入っているような感じがする
- 集中しようとするほど頭がぼーっとする
- 最近あった出来事が思い出しにくくなった
- 考え事をしているといつの間にか別のことを考えている
- 決断するのに時間がかかるようになった
- 人の会話がうまく頭に入ってこない
- マルチタスクができなくなった
- 会話に適切な単語が思いつかない
- 物事を開始するのに時間がかかる
- やらないといけないことの優先順位がつけられない
モヤがかかって集中できないような症状に加えて、言葉がうまく出てこない、人の話が頭に入ってこない、などの症状が合わさることが多くあります。
ブレインフォグの原因は?
「目の前の仕事や勉強、家事に集中しようとしているのに、あっちのことも、こっちのことも頭に情報が入ってきて、だんだん頭がぼーっとしてとの前のタスクに集中できなくなる。」
ブレインフォグの原因は身近にあります。PCやスマホ、ゲームなどで頭につねに情報が入ってくる、選択した情報ではなく、どんどん新しい情報が勝手に脳に入ってきて負荷をかける脳疲労の状態です。その状態を「脳がハックされている」と話されていた方もいました。
また、職場や家庭における不安やストレスがつみかさなったり、オンとオフがうまく分けられず1日中仕事のことを考えてしまう、睡眠や、食事や栄養、運動、アルコールなど生活が不規則で心身の負荷が続く、女性ホルモンの不調で生理前の不調(PMS/PMDD)、更年期などもブレインフォグの原因になることが多いです。
最近では、抗うつ薬を飲みはじめてから症状がでた、もしくはうつ病に対する抗うつ薬やベンゾジアゼピン系のお薬を減薬したときの認知機能の低下としてのブレインフォグや、ウイルス感染後の炎症の後遺症として倦怠感や集中力の低下などが続くブレインフォグなどの相談が増えています。
コロナウイルス感染症の後にブレインフォグになった可能性のある方は、こちらの記事もご参照ください。
ブレインフォグになりやすい人とは?
- 労働時間が非常に長いと感じる
- 仕事の精神的負担が大きい
- 勤務日の睡眠時間が6時間未満である
- 慢性的に疲れている
- 憂うつな気分やほとんどのことに興味がもてない状態が続いている
参照:労働安全衛生総合研究所 長時間労働者の健康ガイド
コロナ感染症などのイベントがなくても、普段の小さなストレスで脳疲労は蓄積します。仕事や人間関係などで、慢性的に精神的・肉体的な負担がかかっている場合、ブレインフォグになりやすい状態であると考えられます。
ブレインフォグの診断基準は?
ブレインフォグは医学用語ではなく、病名とは異なります。よく「私はブレインフォグではないでしょうか?診断をしてください」とお伝え頂く患者さんがいらっしゃいますが、医学を取り扱う病院ではブレインフォグの「診断」は行っておりません。
診断は行っていませんが、他に明らかな症状や原因がなければ、臨床症状からブレインフォグとして治療を開始することが多いです。
ブレインフォグの治療:TMS治療
ブレインフォグの治療はまだ確立されていませんが、TMS治療によって改善される方が多くいらっしゃいます。
「これまでは元気だったけれど、コロナウイルスに感染した後から、頭がぼーっとして集中できない」といった方はブレインフォグとして、TMS治療を受けていただくことをオススメしています。早い方であれば10回の時点で、頭がスッキリして集中できるようになります。
脳を直接ケアするTMS治療とは?
TMS治療は日本語では経頭蓋磁気刺激と呼ばれ、脳を直接刺激することによって脳の状態を改善します。
ブレインフォグの状態は脳ネットワークでは、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)が過剰な活動をしており、CEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)が活動低下している状態ともいえます。TMS治療は脳のネットワークを調整しブレインフォグを治療します。
TMS治療は、磁気により身体を傷つけることなく脳細胞を刺激することで脳の治療ができる副作用の少ない新しい治療です。
元々、脳神経内科領域の検査やリハビリテーションの治療などにも使用されていた機器であり、2000年頃から急速に心の治療としてTMS治療の研究がすすみました。日本でも世界に10年遅れ、2019年6月にうつ病に対するTMS治療が保険診療化されました。海外では主流な治療の一つでもありますが、日本では保険診療化されたばかりの治療であり、TMS治療の経験がある日本の医療者は多くありません。
当院では、ハーバード大学TMSコースを修了した医師が、精神科教授、神経内科専門医、脳外科で脳波を専門としていた臨床工学技士と協同し、4000人以上の日本人に対する症例から、「日本人に合わせた世界標準のTMS治療」を行っています。
当院のTMS治療効果
当院では、2021年4月19日から2022年4月4日までコロナ後遺症のブレインフォグを主訴にした症例で約7割が自覚症状・心理検査ともに改善されました。
落ち込みや集中力の心理検査が改善され、「決断のスピードが戻ってきた」、「本が読めるようになった」、「優先順位が付けられるようになった」と日常生活に影響が出ていた症状が緩和されたケースもありました。
元々TMS治療は個人差が大きな治療でもあり、効果を約束するものではありませんが一定の改善率が示されました。
当院は、日本人に対する4000症例以上のTMS治療経験をもとに、ハーバード大学TMSコースを修了した医師と大学の精神科教授、臨床工学技士チームで日々データを積みかさね、「日本人に合わせた世界標準のTMS治療」を提供しています。
ブレインフォグの症例報告
20歳女性 コロナウイルス感染後、ブレインフォグで大学の課題ができなくなったがTMS治療で改善した例
受診3ヶ月前に新型コロナウイルスに感染しました。元々は外交的な性格でしたが、受診2ヶ月前から通っている大学で対面授業が始まり、そのタイミングから急に落ち込み、頭に霧がかかった感じが出現しました。大学の課題が手に付かず、友達ともうまく付き合えなくなり、マイナス思考が強くなったことにお困りで受診されました。初診時も落ち込みが強く、ブレインフォグとしてTMS治療を開始しました。10回終了時、落ち込むことはまだあるものの、以前のようなどん底ではなくなったとお話しされました。20回目終了時、人とも普通にしゃべれるようになり、「完全に元の状態に戻った感じ」とお話しされました。うつ状態及び不安の心理検査はそれぞれ、初診時と20回目時を比較し、18点→0点、8点→0点と改善しました。
36歳男性 ウイルス感染後から続く頭のモヤがTMS治療で改善した例
ウイルス感染で38℃の発熱後、1日で解熱しましたがその後から夜に2時間程度で何度も起きてしまうようになりました。気分も身体もとにかく上がらない状態が続いており仕事中もぼーっとしてしまい、仕事ができなくなる不安感に襲われることが多くなったことがお悩みでした。当院初診時、集中力の低下が21点(8点以上で不調を示す)であり、とくに頭がぼーっとして、意思決定が遅くなっていることが経営の仕事に影響が出ていると相談されていました。
TMS治療を開始し、開始10回目の1週間後には集中力の低下が9点(8点以上で不調を示す)となり、ブレインフォグが改善し、集中力が少しずつ上がってきたことと気持ちの落ち込みがなくなったこと、疲労感がなくなり活動がしやすくなったと喜ばれていました。
32歳女性 3年前から続くブレインフォグがTMS治療で改善した例
3年前より仕事に集中した夕方に頭が重くなる感じを強く自覚するようになりました。当院初診時、集中力の心理検査が16点(8点以上で不調)と頭にモヤがかかったようにボーっとする、集中力の低下を自覚されていました。TMS治療を開始し、1回目のTMS治療終了後から頭がすっきりする、肩の力が抜けたと初回から効果を実感されていました。週に3回のTMS治療を開始し、TMS5回目には、心理検査が4点(8点以上で不調)と頭にかかっていたモヤが刺激した位置からすっきりする感覚がすると話されていました。
TMS20回目からは週1回のTMS治療に変更しましたが、TMS23回目で週1回のTMS治療では頭がぼーっとする感じが最後の2日強くなると話されており、週に2回のTMS治療に変更しました。TMS30回目の時には脳が安定し、週1回のTMS治療に戻し、現在では2週に1回メンテナンスTMS治療で頭のすっきり感が継続しています。
38歳男性 仕事を契機としたブレインフォグ・集中力低下がTMS治療で改善した例
コンサルタントとしてパートナーに昇格後、業務量が多くなったことをきっかけにマルチタスクができないことをお悩みでいらっしゃいました。当院初診時、集中力の心理検査が21点(8点以上で不調)と集中力の低下から業務効率の悪さを自覚し、仕事のミスが多くなったと周りの人から指摘されるようになっていました。ブレインフォグを自覚されていましたが、週5日、昼休みを活用して通院をして治療開始5日目で頭がすっきりするようになってきたと、思考力の改善を自覚されていました。
TMS10回目には心理検査が7点(8点以上で不調)と心理検査上の改善も認め、自分のミスだけでなく部下のミスにも気づくようになったり、会議で適切な言葉がすぐに出てくるようになる、マルチタスクも以前のように苦痛なくできるようになってきたと喜ばれていました。
TMS30回の時点で時間を忘れる程集中ができるようになったとおどろかれており、現在では週末の週1回メンテナンスTMS治療を行っています。
基本的には、まずは症状をよくするために10~20回TMS治療を行います。
その後、状態を安定させるために徐々に間隔を伸ばして10回程度フォローアップを行っていただくことをオススメしています。
特に20代〜40代で元々元気だった方は、早い段階で効果が見られることが多いです。オミクロン株を含めたコロナ後遺症でお悩みの際には、まずはお問い合わせフォームからご相談ください。来院いただいた後は、医師が診察にて丁寧にお話を聞かせていただきます。