コロナ後遺症の倦怠感から社会復帰を目指すリハビリテーション

東京TMSクリニックでは2020年9月より新しい脳の磁気治療であるTMS治療により、コロナ後遺症の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)ブレインフォグを治療していました。

2年の治療経験をもってある程度の治療効果が見込めた一方、臨床ではコロナ後遺症に対するTMS治療の次なる課題が見えてきました。

TMS治療により倦怠感やブレインフォグが改善した後、体力が低下したまま社会復帰をするとPEM(Post-exertional malaise) や突然の倦怠感悪化をおこす症例が認められ、治療後のカウンセリングで不安になる患者さんもいます。

医療法人社団ベスリ会・東京TMSクリニックは新型コロナ後遺症に対し、短期集中TMS治療に訪問リハビリを組み合わせ「コロナ後遺症社会復帰プログラム」を2022年6月中旬から提供します。

〇コロナ後遺症に対するTMS治療の課題

日本でも東京TMSクリニックが先駆けてコロナ後遺症の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)ブレインフォグに対しTMS治療を開始しましたが、近年世界でもコロナ後遺症に対するTMS治療が臨床で行われるようになっています。

感染後の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)やブレインフォグは脳の慢性炎症、ミクログリアの活性化が病態として考えられています。

TMS治療は副作用が少なく、脳をケアできる治療として2019年保険診療になり、作用機序の一つとして脳の慢性炎症、ミクログリアの活性化の調整があります。

コロナ後遺症は早い経過をたどることが多いです。治療開始が早いタイミングでできると脳も神経可塑性が保たれていることが多く、長期化した難治性うつ病などよりも比較的早く倦怠感やブレインフォグの改善ができるい可能性があります。

2021年4月19日から2022年4月4日までに東京TMSクリニックでコロナ後遺症に対するTMS治療を受けられた方で約7割が自覚症状・心理検査ともに改善を認めています。

しかしながら、2年間にわたるコロナ後遺症に対するTMS治療経験から次なる課題もみえてきました。

〇コロナ後遺症のPEMとクラッシュとは?

コロナ後遺症の一番注意をしなければいけないことは「PEM(Post-exertional malaise) :運動後(労作後)倦怠感」動いた後の倦怠感といわれています。PEMがあると少しの無理で急激に疲労が強くなることがあります。

コロナ後遺症の社会復帰はこのPEM(Post-exertional malaise) と体力づくりのバランスをとることが重要です。そのため、運動療法やトレーニングは計画的に行う必要があります。

ME/CFSでは許容量が超えた身体・精神負荷がかかったときには「クラッシュ」という現象が起こります。

「クラッシュ」の定義はあいまいですが、数日間寝込んで動けなくなる状態です。

「PEM」や「クラッシュ」は半日後や1-2日後など,時間が経ってから症状が出ることもありどの行動が原因だったのかがわかりづらいこともコロナ後遺症の難しいところです。

「PEM」や「クラッシュ」を繰り返していると筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に移行しやすくなるといわれています。

そのため、「PEM」、「クラッシュ」が起きないように慎重に心身の労作と負荷をコントロールしながら体力づくりをする必要があります。

〇コロナ後遺症に対するTMS治療ができないこと

 TMS治療が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)やブレインフォグに対し、一定の効果が見込まれる一方、「体力づくり」、「日常生活や仕事の負荷のかけ方」、「疲労の対処方法」など社会復帰をするための次のステップをどのように気を付けたらよいかわからないという相談を多くいただきました。

TMS治療を行い、強い症状が落ち着きある程度動けるようになった後には、どのように「PEM(Post-exertional malaise) :運動後(労作後)倦怠感」やクラッシュを予防しながら動くかの再発予防のステップが次に必要になります。

コロナ後遺症外来の先生方からは「コロナ後遺症はできるだけ負荷をかけないように、訓練はしてはいけない。だるくなることをしない。」というようにアドバイスがあることが多く、自分が何をどのくらいどの程度してよいのかがわからない、という不安が大きくなる方もいます。

負荷のかけ方については PS(performance status)による疲労感・倦怠感の程度・病状・周囲の環境・性別・筋力・心拍数など1日1日でも異なり、個別性も強く、一人一人に合わせ負荷をかけるプランを立てる必要があります。

〇コロナ後遺症が体力低下しやすい理由

新型コロナウイルス感染症は、他の病気よりも体力が低下してしまう傾向にあります。

①隔離期間が7日間以上ある

新型コロナウイルス感染症の場合、風邪などと異なり隔離が7日以上(無症状病原体保有者の場合は最低7日間)必要です。

筋肉を長時間使わない寝たきりの状態でいると、1日3-5%も筋肉が委縮し、筋力が低下します。

高齢者が寝たきりにならないようにするというのはよく聞くかもしれませんが、筋肉萎縮による体力低下を予防することも理由の一つです。

高齢者だけでなく、若い人も寝たきり状態になると同じように筋力が低下し、体力が低下してしまいます。

②コロナ感染時・コロナ後遺症の倦怠感

新型コロナウイルス感染症の場合、感染の症状にも後遺症にも倦怠感があり、動きづらくなり体力が低下します。

③コロナ後遺症のPEM予防のため動けない

コロナ後遺症外来では、PEM「PEM(Post-exertional malaise) :運動後(労作後)倦怠感」やクラッシュから慢性疲労症候群に移行しないよう、医師からできるだけ負荷をかけない、動かないようにアドバイスがされることが多いです。

PEMが起こるかもしれないと不安でどのくらい動いていいのかがわからず横になる時間が増え体力が低下していることもあります。

〇コロナ後遺症のTMS治療症例と課題

①50代 女性 主訴:コロナ感染後の頭痛・倦怠感・会話をしても言葉が出て来ない 
コロナ感染後、動くと疲れて一日寝てしまう倦怠感、すっきりしないブレインフォグ

1ヶ月前にコロナウイルスに感染し、自宅療養翌日より頭のすっきりしない感じが続いていた。クリニックのコロナ後遺症専門外来に受診し、漢方や鉄剤を処方してもらったものの大きな改善が認められていなかった。

仕事を再開したところ、人と話すときの言葉が出て来なかったり、話の意図が伝わらなかったりとブレインフォグの症状が出現し、横にならないと動けない疲れやすさに悩まされれるようになった。

PS2であり、「PEM(Protein energy malnutrition):たんぱく質・エネルギー欠乏症」にならないできるだけ負荷をかけないように運動や外出をしないほうがよいと主治医からアドバイスをもらったものの、改善の見込みがなく不安がつのりました。

ブレインフォグだけでも改善したいとTMS治療を希望され来院されました。

TMS治療5回目の時にはPSが0になる日もあり、人との会話でも言葉が出やすくなり、記憶もよくなってきたと話されていました。TMS治療10回目の時には逆に疲れてしまうため湯舟につかれなかった状態が、湯船につかれるようになりました。TMS治療20回目の時にはPS0となり、前にできていた外出や習い事などを少しずつはじめてみようかという気持ちになってきたとお話しされていました。TMS治療25回目の時には、2週間に1回の治療メンテナンス治療に移行しました。

再発に不安が強く、「普通の病気であれば治ったらよいけど、この病気は体力をつけるということが怖い」、「何をどの程度我慢すればよいのか」、「どの程度の負荷ならやってもいいのかを自分の体をみて負荷のかけ方と体力をどう上げていくかの相談をしたい」とお話しされていました。

②20代 男性 主訴:感染後の倦怠感と筋肉量低下 
シャワーが持てない、脱力感とだるさ・筋肉痛

2年前にコロナウイルス疑いで感染症状が起き、その後微熱や倦怠感に悩まされていた。

2ヶ月前にBスポット治療を開始し、頻回の通院を繰り返したところ突如倦怠感が強くなった。

お風呂に入ると疲れてぐったりしてしまう、手足のしびれや疲労感でシャワーが持てない状態となり、家族に洗髪をしてもらっていました。

大学病院のコロナ後遺症専門外来に受診し、検査と漢方を処方してもらいましたが著効せず、当院にはコロナ後遺症の疲労感、慢性疲労症候群に対するTMS治療を希望され来院されました。

  • 9: 身の回りのことはできないが、常に介助が必要で1日中横になっている
  • 8: 身の回りのことはできるが、介助が必要で 1日の半分以上は横になっている
  • 7: 身の回りのことはできるが、 軽作業はできない
  • 6: 軽作業はできる、 週に半分以上は自宅で休息が必要である
  • 5: 軽作業はできる、週に数日自宅で休息が必要である
  • 4: 週に数日、自宅での休息が必要である
  • 3: 月に数日、自宅での休息が必要である
  • 2: しばしば休息が必要だが平常の生活ができる
  • 1: しばしば倦怠感を感じるが平常の生活ができる
  • 0: 倦怠感がなく平常の生活ができる

TMS治療初回終了後より少し頭がすっきりしたような感じがするとお話しされました。初診4日後にコロナ後遺症外来で検査結果の異常がないため終診となってしまい、TMS治療のみでの加療がスタートしました。

治療10回目の時にはしびれや脱力感が軽減し、寝る前に書いていた冷や汗をかかなくなり、動いた際の息苦しさは続くものの頭がクリアになる感じがするとお話しされていました。

治療20回目の時には意欲が出てきて、集中力や息苦しさが改善し日中も動ける時間が増えてきたとお話しされました。

治療30回目には、日中の手足の脱力感を感じにくくなり入浴も自分で苦なくできるようになったとお話しされていました。ブレインフォグについてはあまり気にならなくなったものの、長い時間歩くと疲れてしまい体力の低下が気になるとお話しされていました。

TMS治療は2週に1回のメンテナンス治療に移行しましたが、再発が怖くどのように早めに体力をつけられるのかがわからないとお話しされていました。

コロナ後遺症に対するTMS治療の課題:1人1人に合わせた体力づくりプラン

コロナ後遺症は「PEM」、「クラッシュ」が起きないように慎重に心身の労作と負荷をコントロールしながら体力づくりをする必要があります。

「大丈夫」と思っても、その後に「PEM」や「クラッシュ」が起きると不安になりやすくなります。

コロナウイルス感染症後に日常生活やスポーツに復帰する場合には、心、肺、精神に対するリスクがあることを考慮する必要があります。

状態によってはリハビリテーションの負荷をかけないほうが良い方もいます。コロナ後遺症の場合はリハビリテーション科専門医がまず心拍数、血圧、体温、経皮的動脈血酸素飽和度、問診、神経学的評価・身体評価を行い、現在のあなたの体力に合わせた体力づくりプランを作成します。

□TMS治療で動けるようになった後に「PEM」や「クラッシュ」にならずに体力を作れるアドバイスが欲しい

□自分の体力の中で安心して好きな活動を行いたい。

□いまの自分の状態に合わせ、家事や仕事が楽にできるようになる専門家のアドバイスが欲しい

□疲れにくい生活のコツ(整理整頓の仕方や体の動かし方)を教えてほしい

□疲労が起こったときの心身の休め方を教えてほしい

□時間がたってから出た「PEM(Post-exertional malaise) :運動後(労作後)倦怠感」やクラッシュが、どの行動が原因だったのか相談したい

上記のような希望に添えるようにPS(performance status)による疲労感・倦怠感の程度・病状・周囲の環境・性別・筋力・心拍数などから一人一人に合わせ社会復帰のための体力づくりプログラムを提供します。

〇コロナ後遺症リハビリテーション

コロナ後遺症のリハビリテーションは息切れなどに対する呼吸機能訓練、体のだるさ・筋力低下などに対する運動療法などを行います。

コロナ後遺症の場合、集中治療室ICUから出た後も残存する息切れなどに対する呼吸機能訓練のリハビリテーションを行うことが多いです。

ある程度外出ができる人は息切れよりも倦怠感のほうが日常生活で支障が出ることが多い一方、ME・CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)と似た持続する倦怠感に対するリハビリテーションは保険診療では対応ができません。

当院ではTMS治療の後に残存する症状が息切れよりも倦怠感や体力低下が多くお悩みとして相談があり、倦怠感に対するリハビリテーションをPSとその日のコンディションにより組み合わせていきます。

ずっとリハビリを続けていくのではなく、自分の体力と心身の休み方を習得し、PEMやクラッシュが起こらず自信をもって日常生活が行えるようになったら卒業になります。

コロナ後遺症については症状と重症度に個人差があるため、リハビリテーションプログラムは個別に計画をしていきます。

創設者 田中 奏多 先生
ビジネスパーソンの心の不調に対する体系的な医療、ヘルスケアサービスが必要と考え「働く人の薬に頼らない心のクリニック」ベスリクリニックを2014年共同創設した。
第3のうつ病治療であるTMS治療を学ぶため、ハーバード大学TMSコースを修了し、2020年5月 東京・恵比寿に日本で初めてのTMS治療専門クリニックである東京TMSクリニックを開院。

  • ハーバード大学TMSコース修了
  • アメリカTMS学会所属
  • 第1回日本精神医学会実施者講習会受講
  • 第1回Neurostar TMS企業講習会受講