心の診療を行っていると、心の不調のはじまりとして休日に無気力になり、寝てばかりになってしまう、やることはたくさんあるのにできない、そんな症状に悩む人が多くいます。
休日動けないとさらに心が憂鬱になり、憂鬱になるからさらに体も不調になるという悪循環が起きます。
また、仕事中の集中力や思考力低下にもつながり、仕事の生産性も落ちるために、長時間労働になりさらに疲労がたまるという悪循環にも注意が必要です。
休日の無気力はうつの入り口とも言える症状です。早めに対策して、元気に過ごせる心身をメンテナンスしていきましょう。

※休日無気力症候群という医学的な病名はないため、当院では休日無気力症候群の診断はできかねます。
目次
休日無気力症候群セルフチェックリスト
やる気がおきない、お昼過ぎまで疲れて寝てばかり、どこかに出かける気力もなくいつも働いてばかりで楽しみがない、人生が楽しくない…そんな症状が出始めた時は心の不調の入り口かもしれません。
- 休日になると何もやる気がおきない
- 起き上がれるのがお昼過ぎになる
- どこかに平日は行きたいと思うが、休日になるとやる気が出ない
- いつもオンばかりでオフになることができない
- 仕事のいやなことを考えて休日の最後を迎える
- 部屋がだんだんと汚くなってくる 整理整頓ができない
- 休み明けにダルさがつらい、朝に吐き気がする、頭痛や心身の不調がある
- 月曜日が来ないでほしい(サザエさん症候群)

休日無気力症候群から始まる3つのステップ
休日無気力症候群はうつ状態の前触れとも言えます。

フェーズ1:休日無気力症候群
平日はなんとか働けているのに、休日になると動けなくなるはなぜでしょうか?
いろいろな理由が考えられますが、端的に言えば平日にエネルギーを使いすぎてガス欠状態になっているからだと考えられます。
平日に仕事をしている間は、交感神経が優位となりストレスホルモンを分泌させながら、なんとか気力で頑張る事ができます。しかし、休日は仕事がない分ストレスホルモンが分泌できず、動けない状態になります。
平日に気を張って無理をしすぎているため、休日に動けない状態になることで、その分のエネルギーを回復しようとしている状態であると言う事もできるかもしれません。
こういった状況には真面目な人ほどなりやすいです。この状態が長く続くと、心身共に疲労感が募り、突然プツンと糸が切れたように無気力になる、うつ状態になり動けなくなるということもあります。
その段階が、次の急性期うつ状態です。
フェーズ2:急性期うつ状態
休日無気力症候群の段階では、休日は一日動けなくなるものの、平日はだるいが一応起きれるという状態が多いです。
次のうつ状態に入ると、疲れているのに夜も頭が覚醒して眠れない、朝起きあがれないという症状に移行していきます。
- 眠れない・起きられない
- 寝ても疲れが取れない
- 話していても頭に入らない
- 小さなことでどっと疲れる
この状態が続くと、仕事にも大きく影響が出てきます。仕事の話が頭に入ってこない、文章が頭に入ってこない、うまく言葉が出てこない、などといった症状が強くなり、生産性がさらに低下します。
そうはいっても成果が求められるため。生産性が低下した分さらに長時間勤務になり、そうすると疲れがさらに取れずに悪循環の一途をたどります。
更にフェーズが進むと、仮に急速が取れた後にも症状が残る状態となります。燃え尽き症候群です。
フェーズ3:燃え尽き症候群(バーンアウト)
無理のある状況に過剰に適応した結果、うつ状態になって環境から一度離れたあとも、休んでも改善しない、不調が続くという人も多くいます。
- 頭のモヤがあり集中力が続かない
- 何もやる気が起きず、寝たきりになりがち
- 頭が回らないが、早く仕事に戻らなければという焦燥感が強い
休職して仕事から離れたり、転職や配置転換で安心できる環境に変わったとしても、頭のモヤが続く、以前のように集中力が続かない、情報をうまく処理できない等の症状があり、仕事で成果がでない自分に焦りを感じることがあります。
受験勉強や、昇進のために一生懸命頑張った後、目標を失ったタイミングでこの状態となることもあります。
この状態は身体が強制的にストップを掛けている状態であり、十分に休息がとれれば回復することがほとんどです。場合によっては休職や投薬が必要と判断されることがあります。
これ以上状態を悪化させないためにできること
これ以上悪化させないためにも、フェーズ1の休日無気力症候群の段階で早めに治療を行うことが重要です。
平日の仕事がストレスになっていることがほとんどであるため、まずは仕事の見直しを行うことが重要となります。
①身体へのアプローチ
- 寝る前の携帯などをやめる
- ベッドでは携帯を触らないようにする
- 朝起きて一番に5-10分程度、日光を浴びるようにする
- 仕事は決まったリズムで休息を挟み身体を動かすようにする
②心へのアプローチ
- 職場で相談できる人を確保する。難しければ友人やカウンセリングを検討する
- 電子機器をオフラインとし完全に仕事を忘れられる時間を持つ
- リラックスでき、気が向くことをする時間を作る
③脳へのアプローチ
脳へのアプローチとして、代表的なものは薬物治療です。
しかし近年、うつの治療が見直されてきています。
薬の治療では、落ち込みや食欲低下などは改善する可能性があるものの、集中力低下や思考力低下など前頭前野が担う症状に対しては効果が出にくいことがわかってきています。そこで注目されているのがTMS治療です。
脳をケアするTMS治療とは?
TMS治療は日本語では経頭蓋磁気刺激と呼ばれ、脳を直接刺激することによって脳の状態を改善します。
休日無気力症候群の脳ネットワークでは、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)が過剰な活動をしており、CEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)が活動低下している状態ともいえます。TMS治療は脳のネットワークを調整して治療します。
TMS治療は、磁気により身体を傷つけることなく脳細胞を刺激することで脳の治療ができる副作用の少ない新しい治療です。
元々、脳神経内科領域の検査やリハビリテーションの治療などにも使用されていた機器であり、2000年頃から急速に心の治療としてTMS治療の研究がすすみました。日本でも世界に10年遅れ、2019年6月にうつ病に対するTMS治療が保険診療化されました。海外では主流な治療の一つでもありますが、日本では保険診療化されたばかりの治療であり、TMS治療の経験がある日本の医療者は多くありません。
当院では、精神科教授、神経内科専門医、脳外科で脳波を専門としていた臨床工学技士と協同し、4000人以上の日本人に対する症例から、「日本人に合わせた世界標準のTMS治療」を行っています。
重症化すると長期にわたって薬物治療が必要になることもあり、重症化しない早めの段階でTMS治療を行うことを検討される方も多くいらっしゃいます。
TMS治療について、詳しくはこちらの記事を参照ください。

当院におけるTMS治療例
41歳男性 過労による憂うつ「頭にモヤがかかった状態を治したい」
半年前から職場が人手不足になったことで残業が増え、休日返上で週6日業務になってから寝つきが悪い、途中で何回も起きる不調を自覚し、憂うつな状態が継続するようになりました。
仕事場では文章が読めなくなり、無気力になり家でもぼーっとしていたことから奥様に心配され当院受診となりました。
初診時は中等度のうつ状態であり、だるさや食欲不振などの身体症状も認められました。これ以上業務と生活に支障が出ないよう短期集中型の治療を希望され、初診の翌日からTMS治療をはじめました。
5日目には心理検査上うつ状態とは判断されず、大きな改善が認められました。20日後には睡眠や身体の症状なども改善し、30日後には体調も安定し、職場と働き方を調整できるようになり、再び仕事に前向きとりかかるようになりました。

まずはお気軽に相談ください
休日無気力症候群は正式な病名ではありませんが、休日無気力で動けなくなってきたら、自分の状態に早めに気づくサインです。
不明な点はお気軽にご相談ください。
